【神尾佑酒に交われば】食事に合うことを追求した「ザ・日本酒」東京の男性がほれ込んで継いだ矢祭町「矢澤酒造店」

Chu! PRESS

2024.03.12

福島県出身の俳優・神尾佑（かみおゆう）さんが県内の酒蔵を訪ね、その酒蔵にまつわる物語を紐解いていく番組「神尾佑酒に交われば」。

日本酒王国福島県には、50を超える酒蔵がある。今回訪れたのは、矢祭町の「矢澤酒造店」。ある酒と出会い、福島の酒蔵を継いだ東京の男性の物語だ。

当時「南郷」を東京に置いていたのは2〜3軒

麻婆豆腐やカレーなど、あらゆる食事に合うことを追求している酒。それが「南郷純米酒」。今風の華やかな香りをあえて抑えた、昔ながらの”ザ・日本酒”だ。

この酒にほれ込んだのが、9代目蔵元の矢澤真裕（まさひろ）さん。自分好みの日本酒を探し求めて訪ねた東京都内の一軒の小料理屋で「南郷」と出会い、「ありそうでない酒」と感銘を受けた。

20歳から日本酒を飲み続けてきた矢澤さんを虜に

虜にしたワケは、昨今流行りの「酒が主役となる吟醸酒」とは一線を画し、食事と共に楽しめる「究極の食中酒」だったから。キレがあって、米のうまみがしっかりと酒の中に出ている。例えるなら、ご飯のような酒だ。米とマッチングしている料理は相性が良い。食べ物のうまみを引き上げてくれる相乗効果で、いつまでも飲み続けて楽しめる。

あらゆる丼物にも合う

この「南郷」を当時造っていたのは「藤井酒造店」。先代の藤井健一郎さんは「『南郷』はうまみがパッと広がりスッと消える、打ち上げ花火のような酒」と表現する。「そんなに日本酒が好きで詳しいんだったら、造ったらいい」と、後継者を探していた先代との間でとんとん拍子で話が進んだ。

右側が、藤井酒造店8代目蔵元の藤井健一郎さん

東京で国交省の官僚を経て醸造機器メーカーに勤めていた矢澤さん、「運命的な出会い」を果たしてからわずか8か月で酒蔵の経営、そして酒造りを継ぐことに。8年前のその時以来、冬の間は矢祭で酒を醸し、それ以外は東京の家族のもとで「南郷」を売り込む生活が始まった。

シンボルカラーの赤色が際立つ

ここは、福島県の最南端、矢祭町。国道118号沿いに佇むのが「矢澤酒造店」だ。江戸末期の天保4年に創業した。

4つの時代を駆け抜けてきた

敷地内には、「江戸」「明治」「昭和」そして「令和」の4つの時代の蔵がある。

矢澤さんは「一寸法師が入るような釜」と表現

まずは、「南郷」を醸す、代々の伝統を受け継いだ蔵へ。釜場は「昭和」の蔵だ。釜の下はレトロなレンガ造りのボイラーになっていて、ここで沸かして米を蒸したり、酒造りで使った道具を煮沸消毒したりする。昔は石炭を燃料にしていて、それを物語る煙突がいまも残されているのが印象的だ。

年間を通して15度ほどの地下水

仕込み水は、八溝山から流れ出る久慈川の伏流水。雑味が全くなく、とろっとした柔らかさがある。「蔵より上流にダムや堰がないため、かけ流しのきれいな地下水がとれているのでは」と矢澤さんは話す。

25日目くらいの醪

釜場の隣には、江戸時代に建てられた仕込み蔵がある。そこには、ちょうど翌日にも搾ろうとしている状態の醪が。酒蔵には、代々続く独自の酵母が守り神のように棲み着いていて、その酵母を入れるために蓋はしていない。

丸くなった時を見計らって出荷する

「明治」の蔵は、搾った酒を貯蔵する場所。矢澤さんは「ウイスキーなどと同様、普通酒や純米酒を何年か寝かせると、アルコールの角が取れる。日本酒も、新酒がおいしいものもあれば、少し寝かせた方が丸みや味わいが出てきておいしい酒もある」と語る。

蔵の知名度を上げるために…

「南郷」を広め、さらに後世につなげるために。去年、カフェスペースを備えた新たな酒蔵をつくった。100年200年と引き継いでいきたいという思いから、日本を代表する建築家と共に、地域との調和を最優先に考えた蔵にした。地元の八溝杉（やみぞすぎ）を使っている。

木の温もりと高い天井、天窓が印象的

そんな「令和」の酒蔵には、コンパクトな仕込みタンクがある。目に鮮やかな赤色は「矢澤酒造店」のシンボルカラーだ。一升瓶で100〜200本ほどのサイズ感で造れるため、出品するような特別な酒を仕込んだり、フルオーダーで要望に合わせた味や香りで醸したりすることも可能だという。

ココにこんな場所があったとは！と驚くほどのオシャレ空間

ショップや試飲できるカフェスペースでは、日本酒とペアリングセットのほか、甘酒や紅茶などさまざまなカフェメニューも楽しめる。本物の暖炉もあるなど、自然のぬくもりを感じながらリラックスできる空間だ。

奥には暖炉も

そんなオシャレなカフェで、万人に勧められるという「純米大吟醸白孔雀」をいただこう。国内はもとより海外でも高い評価を受けている1本だ。フルーティーでキレがあり、うまみも感じられる。実は「『南郷らしさ』が、この中にも潜んでいる」と矢澤さんは話す。

「南郷」の遺伝子を受け継いでいる

とはいえ、矢澤さんの推しはやはり…「南郷純米酒」。人生を変えてしまうほどの酒に出会った矢澤さん。この食中酒の魅力を多くの人に伝えるために、今後も矢祭と東京で駆け抜けていく。

Chu!PRESS編集部

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